イノベーションストーリー

Innovation Story

先輩×後輩対談②

王子ホールディングス株式会社
CNF創造センター

木質由来の新たな素材のなかでも、
「夢の素材」として大きな注目を浴びたセルロースナノファイバー(CNF)。
新素材ゆえに製品化に向けての困難さを高めますが、ひたむきに情熱を注いだ先で、新たな可能性をひらく展開が始まろうとしています。

R.T

R.T

王子ホールディングス株式会社
CNF創造センター

H.F

H.F

王子ホールディングス株式会社
CNF創造センター

「夢の素材」セルロースナノファイバーが、
その可能性を引き出す新たなステージへと進みます。

セルロース+ナノ化による 優れた性質も併せ持つ

セルロースナノファイバー(以下、CNF)とは、どういうも のか教えてください

H.F H.F
CNFは、文字通りセルロースをナノ化したもので、具体的には、紙に使っているパルプを100万分の1ミリのレベルまで微細化したものです。細かくすることで様々なメリットが生まれ、従来のセルロースの特徴である軽量でありながら高強度といった良さに加えて、透明性や高粘度など、ナノ化することで得られる新しい特性があるので、これまではなかった新しい用途を切り開く可能性のある素材です。CNFが本格的に研究されるようになったのは2000年代後半からで、王子でも2008年頃から取り組んでいます。もともとセルロースとして持っている特徴を活かしつつ、CNFならではのプラスアルファの部分を生かすには、どんな用途が最適か、そのためにはどんな課題があり、どのように克服すれば良いかといったことを日々、研究しています。
R.T R.T
CNFの用途としては、化粧品などに混ぜる増粘剤などがあります。CNFには透明性、高粘度、チキソ性(チキソトロピー性)、分散安定性があり、今まで使われてきた増粘剤に比べると、少ない量を加えるだけで意図する粘度にすることができます。また例えば日焼け止めの場合、使う前に容器をシャカシャカと振ると、サラサラの薬液が出てきます。塗り伸ばしたりしやすいけれど、塗布後は垂れたり流れたりせず、その部分に留まっていますよね。この性質が「チキソ性」で、容器の中に入っているときや塗ったあとなど、静置すると高い粘度を示す一方で、流動時、つまりシャカシャカと振ったりすると粘度が非常に低くなってサラサラになる。CNFはチキソ性に非常に優れているので、すでに化粧品に採用されていますし、他に採用された例としては、車に吹きかけるスプレーもあります。スプレーしたときはストレスなく出てほしいけれど、車のボディに付いたら、垂れずにとどまってほしい。そういう使われ方に最適な性能と言えます。一般的に使われている増粘剤のキサンタンガムやCMC(カルボキシメチルセルロース)といった増粘剤と比べても、CNFのこの性質は非常に優れています。

セルロースナノファイバー(CNF)は木質繊維をナノ単位(nm)にまで微細化したものです。王子ホールディングスでは、製造時に微細化に要するエネルギーを低減する「リン酸エステル化法」を採用し、生産効率の高さと品質の高さの両立を実現しています。
用途に合わせて、スラリー状、パウダー状、シート状に製造することができるのも大きな特長です。

優れた性質を持つ一方で、 従来の作り方が通用しない

これまでの研究におけるご苦労などをお聞かせくだ さい。

R.T R.T
お客様からの引き合いに対して、単純にCNFのシートを納品すれば済むということはまずありません。それぞれの製品によって用途や求められる効果などが異なるので、ニーズに合ったものにするには細部の調整が必要で、実はこれがとても難しいんです。CNFは特徴的な性質を持っている分、従来の作り方が通用しない部分があって、例えば粘度を少し高くしただけで、均一な膜ができなくなってしまい、途中に虫食いのように穴が空いたシートができてしまうんです。卓球のラケットのときも、納品日は決まっているのに、最適なCNFシートがなかなか作れませんでした。研究所で製造条件を見直すことをひたすら繰り返し、ようやくできたものを持って工場に通い、現場の方たちとテストを繰り返し、その結果をもとに作る条件を見直して試作を行う、ということを重ねて、本当に苦労の末に、納期に間に合わせることができました。CNFのシートとしての受注は、このときが初めてだったので、絶対に落とせないというプレッシャーもすごくて…(笑)。でも、なんとか乗り越えたおかげで、今でも継続的な販売につながっているので、頑張って良かったなって思っています。
H.F H.F
「出来上がるまで帰ってこない」というくらいの勢いで工場に通い詰めていました。もし他の人が同じ状況だったら、折れてしまう人も多い状況だったと思います。出来上がるまでやり続けるというTさんの根性や胆力には本当に頭が下がりました。
私も、コンセプトカーの窓を作る時も大変でした…。シートができて、それで終わりではなく、コンセプトカーに合う形状に成形しなければならない。一つのアイテムの大きさが大きいので、型に流して、失敗して、それでまる一日ダメにする、みたいなことが一か月も続きました。大きいし、重いし、納期も決まっているし、本当に苦労しました。
R.T R.T
あと、CNFそのもの以外の研究もあります。例えば車の窓として開発しているのはCNFとポリカーボネートを複合させたものなのですが、親水性(水となじみやすい)CNFは、疎水性(水をはじきやすい)のプラスチック樹脂と混ぜ合わせることが難しいんです。これはCNFにとって永遠のテーマの一つかもしれません。例えば、ゴムに混ぜて強度の高いタイヤを作る研究もおこなわれていますが、ただ混
ぜればいいというわけではなく、界面制御といって、二つの素材の相性を良くしなければならないのです。この解決に向けて日々研究をしています。
H.F H.F
一般の人にとって、木から透明なものができる、というのも非常に驚かれる内容ですし、ガラスの代替品が木からできていると聞いたら、驚きはもちろん、CNFの価値が世の中にもっと広く、深く知られていくでしょう。他にも、包装材に使えたらいいなと思っているのですが、課題はコストです。どうしてもナノ化するところでコストがかかってしまう。ですから、性能面での研究もあれば、低コスト化や製造に関する研究もあって、取り組むことがたくさんあるというのが現状です。CNFのユニークな特徴を活かすためにも、コストの壁を打破し、早くさまざまな製品を送り出したいと思っています。

CNFならではの優れた特性で、多彩な用途に展開

トップダウンではなく、 一人一人が自らしっかり考える

お二人はふだん、どのような関わり方でお仕事されてい るのですか?

R.T R.T
一緒に仕事をするようになって4~5年になります。
以前は先輩・後輩の関係でしたが、昨年、Hさんがリーダーになったので、上司と部下に少し関係が変わりました。Hさんに、あるテーマで相談したあと、他のスタッフが別のテーマについて相談していることもあるんですが、よく話が混ざらずに考えられるなぁと、頭の切り替えの巧みさに驚かされます。しかも知識の蓄えもすごくて、いつ、これだけの知識を蓄えているんだろうと不思議になるくらいで
す。仕事の仕方が上手だなと思うことが多いです。
H.F H.F
そう見てもらえるはうれしいですね。私は何かを開発するときに心がけていることとして、その対象を好きになろうと思うようにしているのですが、そうすることで自然とそれぞれの分野での知識が入ってくるのかもしれませんね。
R.T R.T
上司と部下という立場になってからも、Hさんはこちらの意見も汲み取ってくれることが多くて本当にありがたいです。上司の言うとおりに部下が動かなければならいという体制ではなく、実務者寄りの立場でアドバイスしてくれるので、開発体制としてとても動きやすい環境だと思います。
H.F H.F
世の中の流れとして、トップダウンが主体の時代から、スタッフの一人一人が自らしっかり考えることが大切になっています。指示されたことだけをこなすのではなく、「思うようにやってごらん」と言ってもらえたら、責任も伴うけれど、やる気も出ますよね。何より、制限を取り払って思考できるようになりますし、それは研究者として大切なことです。それに、昔なら「これは失敗する可能性もあるから、提案したり、取り組んだりしないでおこう」ということもあったかもしれない。でも、今は「できるかどうかはわからないけれど、チャレンジしなければわからないし、提案してみよう」という気持ちで、日々取り組んでいます。可能性を感じたことは試した方がいいし、研究開発部門の在り方として、
それが本来の姿だと思っています。
R.T R.T
トップダウンの体制だと自分の意見を言いづらい。また、研究者として自分と相容れない思いを抑えて働くのはつらいから、新しい発想とかは考えないようにしてしまう。でも、今の体制はとても自由なので、新しい方向性を提案して、一筋の光でも見い出せたらと思いながら業務に取り組んでいます。
H.F H.F
最近では、若手主体の勉強会のようなものも活発に行われるようになっているんです。そこから上がってくる発想がいいのはもちろんなのですが、若い子たちから上がってくるという流れにこそ意義があると思うんです。こちらから指示を出してアイデアを出すのではなく、自発的に行うというのは本当にいいことだと思います。
R.T R.T
うちの部署は人数が多いこともあって、他の人たちがどんなことに取り組んでいるのかが分かりづらい。そこで、お互いのやっていることを共有する会を催しています。それに参加すると、ふだん開発に関わっていない方からの意見や視点をいただくことも多いので、気づきにもなるし、研究での経験談もすごく役に立つんです。いろいろ苦労や経験から培ってきた知見を惜しげもなく教えてくださるんです
が、自分ではなかなか気づけない内容も多くて、とても勉強になっています。

何にでもCNFが使われる未来 それは森がすぐそばにある社会

CNFの魅力や今後の可能性についてお聞かせください。

R.T R.T
CNFは、化粧品や卓球のラケット、自動車の窓など幅広く展開できるし、その用途だけでなく、きっと気づいていない特徴もあるはずです。可能性が未知数だというところがCNFという素材の魅力だと思います。また、そうした可能性を作っていけることが、研究者としてとても幸せに感じています。
H.F H.F
CNFが叶える未来として、再生可能な木質由来素材を積極的に使用していくことで、持続可能な社会を実現が挙げらえると思います。ボディの軽量化により航続距離を延ばせますし、温室効果ガスの削減にも繋がります。
行きつく先としては、クリアファイルでも菓子の包装でも何にでもCNFが使われている社会が実現できたらいいですね。それは、言い換えれば身近ないろんなところに木がある、ということ。そんな未来を思い描きながら開発していきたいと思います。

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